ぜひプログラマに見て欲しい映画
このサイトのメインは、言うまでもなく書籍です。
しかし、その趣旨とは異なりすみませんが、この映画を紹介させて下さい。
イギリスの数学者アラン・チューリング(演ベネディクト・カンバーバッチ)が、ドイツ軍の暗号解読に挑んだ実話が基になっています。
プログラマやエンジニアなら、心にグッときて楽しめる作品です。
本サイトではネタバレせず、プログラマらしい切り口で魅力を紹介します。
なおAmazonプライムなら、無料で視聴可能でした(執筆時点)。
アラン・チューリングのココがスゴイ
飛び抜けた発想力
![アラン・チューリング チューリングの写真](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Alan_Turing_Aged_16-220x300.jpg)
カンバーバッチと似てる?
まず、映画では触れていない史実について。
アラン・チューリングは何故すごいのか?
その業績は多数ありますが、分かりやすいものを一つ挙げます。
それは1936年、現代コンピューターの原理を搭載した機械を、いち早く発表した事です。
そして驚くことに、チューリングが発表したコンピューターは、あくまで想像上の機械でした。
つまり、実際に動くハードではありませんでした。
なぜなら当時の技術では、まだ実現は難しかったからです。
そんな時代に、創造力だけでコンピューターを完成してしまったのが、チューリングです。
まさに天才ですね。
フォン・ノイマンを突き動かす
そんなチューリングから影響を受けたのが、コンピューターの父と呼ばれるフォン・ノイマンです。
![フォン・ノイマン ノイマンの写真](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/JohnvonNeumann-LosAlamos-230x300.gif)
非常に多才、史上最高の頭脳とも
核兵器大好きおじさん
チューリングは、1936年にアメリカのプリンストン大学へ留学し、そこでノイマンと出会います。
そしてノイマンは、この変わった男との出会いがきっかけになり、コンピューターの研究を始めた、と回想しています。
彼は、よほどチューリングが気に入ったようで、助手としてアメリカに残る事を勧めた程です。
結局1938年にチューリングはイギリスへ帰国します。
(※ちなみに1942年、再び渡米してノイマンと会ったらしいです)
そしてコンピューターが出来た
チューリングに触発されたノイマンは、後にジョン・モークリーとプレスパー・エッカートのプロジェクトへ参加します。
ここで作られたのが、世界最初の実用コンピューターENIAC(エニアック)です。
![ENIAC ENIACは巨大で、部屋全体がコンピューターです。](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/EniacImage-300x229.jpg)
起動すると、フィラデルフィア中の街灯が暗くなったそうな
さらに後継のEDVAC(エドバック)へと至り、いわゆるノイマン型コンピューターという言葉が生まれました。
(この命名に、モークリーとエッカートは怒りましたが…)
友人チューリングが、頭の中で創造したコンピューター。
それを現実の世界へ生み出した時、ノイマンは何を思ったか?
本作にノイマンは出て来ませんが、チューリングがコンピューターへの夢を語るシーンがあります。
こんな経緯を知っておくと、セリフの奥にある壮大な歴史が見えて来ますよ。
最強の暗号を解読せよ
1938年にチューリングは、イギリスへ帰国します。
その翌年ナチスドイツがポーランドに侵攻、イギリスはドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が始まります。
この時代が、本作イミテーション・ゲームの主な舞台です。
チューリングはイギリス政府の要請を受け、ドイツの暗号機械エニグマの解読に挑みます。
エニグマは豪華なタイプライターみたいな機械で、当時ドイツ軍はこれを使って指令を暗号化していました。
![エニグマ エニグマはタイプライターよりも分厚く重そうです。](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Enigma-225x300.jpg)
暗号鍵を自在に変更できる
時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルにとって、大戦の勝利にはエニグマ解読が最重要事項でした。
![ウィンストン・チャーチル チャーチルの写真](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Churchill_HU_90973-214x300.jpg)
映画のセリフにも出てきます
そんなわけでチューリングは、エニグマ解読作戦に加わるのですが…
そこには多くの難問が待ち受けていました。
というのが映画の大筋です。
この映画の見どころ
巨大マシンのメカニック
チューリングは、エニグマ解読の為にボンブ(劇中ではクリストファーと呼ばれる)という巨大マシンを開発します。
(ジャケットで背景に鎮座してるやつです)
このマシンにより、人力で一週間を要した解読作業が、わずか一時間で済むようになりました。
![ボンブ ボンブには、ローターが一杯あります。](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/bomb_image-300x225.jpg)
映画でも、資料に忠実なボンブが再現されています。
そして、カッコよく動きます。
ウィーンウィーンと音を立てながら、ドラムや歯車が複雑に噛み合い、たった一つの正解へ向かう…
そのレトロなギミックから、私は逆に新鮮さを感じました。
例えるなら「ピタゴラスイッチ」を初めて見た時のような気分です。
チューリングの奇人変人ぶり
チューリングは天才の例に漏れず、極めて変人でした。
本作でも、そんなエピソードが色々描かれています。
協調性ナッシングで、いきなり同僚とぶつかるわ、空気読めないわ。。。
しかし、そこから成長し、チームワークが生まれて行きます。
不器用で素直になれないチューリングも見所の一つです。
ヒロインは実在した女性
本作のヒロインは、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラーク女史です。
![キーラ・ナイトレイ キーラ・ナイトレイの写真](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/KeiraKnightley-225x300.jpg)
彼女は驚異的に頭が回り、解読チームでも大いに活躍します。
映画にありがちな架空の人物っぽく見えますが、なんと実在した方です。
彼女とチューリングの関係も、本作の大きな流れです。
ただ映画なので、大きく脚色されてる模様です。
写真を見るとナイトレイとはあまり似ていないようですね。
いろいろ小ネタ満載
本作ではチューリングに関する小ネタが、さり気なく散りばめてあります。
制作陣のこだわりを感じました。
例えば人工知能。
チューリングは「人工知能の父」と呼ばれています。
1950年にチューリングは
機械は考えることができるか?
という論文を発表します(いわゆるチューリング・テスト)。
まだプログラミング言語すら無かった時代。
せいぜい巨大な電卓だった機械に、いち早く人工知能の可能性を見出したのです。
映画でも、それにちなんだシーンがあります。
ちなみに、私が一番印象に残ったシーンです。
またチューリングは、チェス・バイオリン・マラソンなど多趣味な人でした。
特にマラソンは、一時期オリンピックを本気で目指したほどの実力です。
そんな彼の趣味にまつわる描写もあります。
何も知らないと意味不明に映るでしょうが…
それ以外にも隠し要素みたいな小ネタが色々あり、事前に調べておくと、見付けてはニヤリとできます。
先人に敬意を表して
アラン・チューリング賞
1966年、彼の多大な業績を記念してアラン・チューリング賞が制定されました。
コンピューター分野にはノーベル賞は無いので、この分野で最も権威ある賞です。
賞金は100万ドルで、Googleが後援しています。
ちなみに2016年度の受賞者は、WWWやHTMLで知られるティム・バーナーズ=リーでした。
![ティム・バーナーズ=リー ティム・バーナーズ=リーの写真](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Tim_Berners-Lee-274x300.jpg)
ここまで読んだ方なら、分かってもらえるかと思いますが、
今日のコンピューター社会の基盤には、チューリングの数え切れない功績があります。
本来なら国家的英雄になる人物ですが、軍事機密ゆえ彼の偉業は語られず、晩年は不遇でした。
イチローじゃなくても…
現在、私達がプログラマーとして活動できるのも、チューリングをはじめとした偉大な先輩方のおかげです。
だから敬意を表す意味でも、ぜひプログラマー・エンジニアの方、また志す方に、心から見て欲しい映画です。
自分の仕事の「原点」を見つめるってのは、本当に大切な事だと思います。
あのイチローは、これまで何度も「アメリカ野球殿堂博物館」を訪れているそうです。
私はイチローのような天才ではありませんが
これからも先人の功績を通じて歴史の空気に触れて行きたい
そう強く思いました。
本サイトの歴史・偉人やコンピューターサイエンスカテゴリーは、そんな思いを込めて作ってます。
続けて見ると楽しいドキュメンタリー
いま 明かされる情報戦 ヒトラーの暗号を解読せよ
監督:ジュリアン・キャリー
さて実は、エニグマを解読して終わり…ではありません。
ドイツは大戦中、さらに強力なローレンツ暗号機を開発しています。
本作は、このローレンツの解読をメインに扱ったドキュメンタリーです。
そして、その為に設計されたコロッサスという解読機(一種のコンピュータ)の秘密に迫ります。
![コロッサス 壁一面を埋めるコロッサスを、女性オペレーター2人が操作しています。](https://programming.bio9.net/wp-content/uploads/sites/3/2017/12/Colossus-300x200.jpg)
この開発を担ったエンジニアのトミー・フラワーズ、数学者ビル・タットの功績が丹念に描かれている、良質のノンフィクションです。
イミテーション・ゲームが面白かった方なら、こちらもかなり楽しめます。間違いなく(断言)
ちなみにフラワーズはチューリングと旧知の仲で、チューリングが彼をローレンツ解読チームに紹介したそうです(Wikipedia情報)。
Amazonプライム会員なら、イミテーション・ゲーム も このドキュメンタリー も無料で見られました(執筆時点)。
おまけ:先人と歴史を知る書籍
最後に書籍サイトらしく、歴史を知る本を紹介します。
![]() あなただけができることをやりなさい ソフトウェア界の偉人23人の名言集 | チューリング、ノイマンをはじめとした偉人列伝 とてもマイナーだけど名著です |
![]() 痛快!コンピュータ学 | 基本原理と歴史が上手くまとまる ENIACに関するゴタゴタは読み応え十分 もちろんチューリングも載ってます |
![]() コンピュータ開発史 歴史の誤りをただす「最初の計算機」をたずねる旅 | フルカラーで写真が一杯 とにかく美しい芸術的一冊 ボンブもコロッサスも両方特集してます。 |
本記事の写真はWikipediaから引用しました
*1 By Andrea Raffin, CC BY-SA 3.0, Link
*2 By cellanr – http://www.flickr.com/photos/rorycellan/8314288381/, CC 表示-継承 2.0, Link