ぜひプログラマに見て欲しい映画
このサイトのメインは、言うまでもなく書籍です。
しかし、その趣旨とは異なりすみませんが、この映画を紹介させて下さい。
イギリスの数学者アラン・チューリング(演ベネディクト・カンバーバッチ)が、ドイツ軍の暗号解読に挑んだ実話が基になっています。
プログラマやエンジニアなら、心にグッときて楽しめる作品です。
本サイトではネタバレせず、プログラマらしい切り口で魅力を紹介します。
なおAmazonプライムなら、無料で視聴可能でした(執筆時点)。
アラン・チューリングのココがスゴイ
飛び抜けた発想力
まず、映画では触れていない史実について。
アラン・チューリングは何故すごいのか?
その業績は多数ありますが、分かりやすいものを一つ挙げます。
それは1936年、現代コンピューターの原理を搭載した機械を、いち早く発表した事です。
そして驚くことに、チューリングが発表したコンピューターは、あくまで想像上の機械でした。
つまり、実際に動くハードではありませんでした。
なぜなら当時の技術では、まだ実現は難しかったからです。
そんな時代に、創造力だけでコンピューターを完成してしまったのが、チューリングです。
まさに天才ですね。
フォン・ノイマンを突き動かす
そんなチューリングから影響を受けたのが、コンピューターの父と呼ばれるフォン・ノイマンです。
チューリングは、1936年にアメリカのプリンストン大学へ留学し、そこでノイマンと出会います。
そしてノイマンは、この変わった男との出会いがきっかけになり、コンピューターの研究を始めた、と回想しています。
彼は、よほどチューリングが気に入ったようで、助手としてアメリカに残る事を勧めた程です。
結局1938年にチューリングはイギリスへ帰国します。
(※ちなみに1942年、再び渡米してノイマンと会ったらしいです)
そしてコンピューターが出来た
チューリングに触発されたノイマンは、後にジョン・モークリーとプレスパー・エッカートのプロジェクトへ参加します。
ここで作られたのが、世界最初の実用コンピューターENIAC(エニアック)です。
さらに後継のEDVAC(エドバック)へと至り、いわゆるノイマン型コンピューターという言葉が生まれました。
(この命名に、モークリーとエッカートは怒りましたが…)
友人チューリングが、頭の中で創造したコンピューター。
それを現実の世界へ生み出した時、ノイマンは何を思ったか?
本作にノイマンは出て来ませんが、チューリングがコンピューターへの夢を語るシーンがあります。
こんな経緯を知っておくと、セリフの奥にある壮大な歴史が見えて来ますよ。
最強の暗号を解読せよ
1938年にチューリングは、イギリスへ帰国します。
その翌年ナチスドイツがポーランドに侵攻、イギリスはドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が始まります。
この時代が、本作イミテーション・ゲームの主な舞台です。
チューリングはイギリス政府の要請を受け、ドイツの暗号機械エニグマの解読に挑みます。
エニグマは豪華なタイプライターみたいな機械で、当時ドイツ軍はこれを使って指令を暗号化していました。
時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルにとって、大戦の勝利にはエニグマ解読が最重要事項でした。
そんなわけでチューリングは、エニグマ解読作戦に加わるのですが…
そこには多くの難問が待ち受けていました。
というのが映画の大筋です。
この映画の見どころ
巨大マシンのメカニック
チューリングは、エニグマ解読の為にボンブ(劇中ではクリストファーと呼ばれる)という巨大マシンを開発します。
(ジャケットで背景に鎮座してるやつです)
このマシンにより、人力で一週間を要した解読作業が、わずか一時間で済むようになりました。
映画でも、資料に忠実なボンブが再現されています。
そして、カッコよく動きます。
ウィーンウィーンと音を立てながら、ドラムや歯車が複雑に噛み合い、たった一つの正解へ向かう…
そのレトロなギミックから、私は逆に新鮮さを感じました。
例えるなら「ピタゴラスイッチ」を初めて見た時のような気分です。
チューリングの奇人変人ぶり
チューリングは天才の例に漏れず、極めて変人でした。
本作でも、そんなエピソードが色々描かれています。
協調性ナッシングで、いきなり同僚とぶつかるわ、空気読めないわ。。。
しかし、そこから成長し、チームワークが生まれて行きます。
不器用で素直になれないチューリングも見所の一つです。
ヒロインは実在した女性
本作のヒロインは、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラーク女史です。
彼女は驚異的に頭が回り、解読チームでも大いに活躍します。
映画にありがちな架空の人物っぽく見えますが、なんと実在した方です。
彼女とチューリングの関係も、本作の大きな流れです。
ただ映画なので、大きく脚色されてる模様です。
写真を見るとナイトレイとはあまり似ていないようですね。
いろいろ小ネタ満載
本作ではチューリングに関する小ネタが、さり気なく散りばめてあります。
制作陣のこだわりを感じました。
例えば人工知能。
チューリングは「人工知能の父」と呼ばれています。
1950年にチューリングは
機械は考えることができるか?
という論文を発表します(いわゆるチューリング・テスト)。
まだプログラミング言語すら無かった時代。
せいぜい巨大な電卓だった機械に、いち早く人工知能の可能性を見出したのです。
映画でも、それにちなんだシーンがあります。
ちなみに、私が一番印象に残ったシーンです。
またチューリングは、チェス・バイオリン・マラソンなど多趣味な人でした。
特にマラソンは、一時期オリンピックを本気で目指したほどの実力です。
そんな彼の趣味にまつわる描写もあります。
何も知らないと意味不明に映るでしょうが…
それ以外にも隠し要素みたいな小ネタが色々あり、事前に調べておくと、見付けてはニヤリとできます。
先人に敬意を表して
アラン・チューリング賞
1966年、彼の多大な業績を記念してアラン・チューリング賞が制定されました。
コンピューター分野にはノーベル賞は無いので、この分野で最も権威ある賞です。
賞金は100万ドルで、Googleが後援しています。
ちなみに2016年度の受賞者は、WWWやHTMLで知られるティム・バーナーズ=リーでした。
ここまで読んだ方なら、分かってもらえるかと思いますが、
今日のコンピューター社会の基盤には、チューリングの数え切れない功績があります。
本来なら国家的英雄になる人物ですが、軍事機密ゆえ彼の偉業は語られず、晩年は不遇でした。
イチローじゃなくても…
現在、私達がプログラマーとして活動できるのも、チューリングをはじめとした偉大な先輩方のおかげです。
だから敬意を表す意味でも、ぜひプログラマー・エンジニアの方、また志す方に、心から見て欲しい映画です。
自分の仕事の「原点」を見つめるってのは、本当に大切な事だと思います。
あのイチローは、これまで何度も「アメリカ野球殿堂博物館」を訪れているそうです。
私はイチローのような天才ではありませんが
これからも先人の功績を通じて歴史の空気に触れて行きたい
そう強く思いました。
本サイトの歴史・偉人やコンピューターサイエンスカテゴリーは、そんな思いを込めて作ってます。
続けて見ると楽しいドキュメンタリー
いま 明かされる情報戦 ヒトラーの暗号を解読せよ
監督:ジュリアン・キャリー
さて実は、エニグマを解読して終わり…ではありません。
ドイツは大戦中、さらに強力なローレンツ暗号機を開発しています。
本作は、このローレンツの解読をメインに扱ったドキュメンタリーです。
そして、その為に設計されたコロッサスという解読機(一種のコンピュータ)の秘密に迫ります。
この開発を担ったエンジニアのトミー・フラワーズ、数学者ビル・タットの功績が丹念に描かれている、良質のノンフィクションです。
イミテーション・ゲームが面白かった方なら、こちらもかなり楽しめます。間違いなく(断言)
ちなみにフラワーズはチューリングと旧知の仲で、チューリングが彼をローレンツ解読チームに紹介したそうです(Wikipedia情報)。
Amazonプライム会員なら、イミテーション・ゲーム も このドキュメンタリー も無料で見られました(執筆時点)。
おまけ:先人と歴史を知る書籍
最後に書籍サイトらしく、歴史を知る本を紹介します。
あなただけができることをやりなさい ソフトウェア界の偉人23人の名言集 | チューリング、ノイマンをはじめとした偉人列伝 とてもマイナーだけど名著です |
痛快!コンピュータ学 | 基本原理と歴史が上手くまとまる ENIACに関するゴタゴタは読み応え十分 もちろんチューリングも載ってます |
コンピュータ開発史 歴史の誤りをただす「最初の計算機」をたずねる旅 | フルカラーで写真が一杯 とにかく美しい芸術的一冊 ボンブもコロッサスも両方特集してます。 |
本記事の写真はWikipediaから引用しました
*1 By Andrea Raffin, CC BY-SA 3.0, Link
*2 By cellanr – http://www.flickr.com/photos/rorycellan/8314288381/, CC 表示-継承 2.0, Link